関連付ける能力(2020年度コース長・河上肇)

筆者は数学を専門にしていますので、入学された皆さんに大切だと思って欲しい数学の学力について述べてみたいと思います。

数学の学力と言うと、真っ先に思い浮かぶのは問題を解くことではないかと思います。問題を解く方法について述べている文献のひとつに、ポリアの著書「いかにして問題をとくか」(丸善出版)があります。この本は、問題を解くための一般的な手順を提示し、その解説、適用例、例題、を述べたものです。手順は4つのステップから成っていますが、その2番目は、どのような方法で問題を解くかの計画を立てる、と言うステップです。ここでポリアが強調しているのは、解くべき問題と自分が持っている知識とを「関連付け」ることです。似た問題を知っているか?、役に立つ定理を知っているか?、未知のものが同じかまたはよく似ている、みなれた問題を思い起こせ、・・・と言ったことが書かれています。

この「関連付け」は、単に教科書の練習問題を解くような場合だけでなく、(数学に限らず)独創的な研究をするような場合にも極めて重要であるようです。筆者がそう言っても説得力が無いと思いますので、卓越した人達の言葉を少し引用してみましょう。

  • P.A.M.ディラック「数学的な方法に関しては従うべき2つのやり方があります。矛盾を取り去ることと、以前はまったく繋がっていなかった諸理論を結合することです。」(「反物質はいかに発見されたか」丸善出版、p.66)。
  • 湯川秀樹「似ているものは同じだと思う、そう思うときに急所を抑えている、ポイントを抑えている。」(「創造への飛躍」講談社文庫、p.158)。
  • ジェームズ W.ヤング(アメリカ広告代理業協会会長等を歴任)「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。」(「アイデアのつくり方」阪急コミュニケーションズ、p.28)。

また、アップルを率いたスティーブ・ジョブズも同様の事を言っていたそうです(出典は忘れてしまいましたが)。

上に挙げた書籍は筆者が若い頃には出版されていていましたが、当時の筆者にはその重要性が理解できず、「人が考えたことを関連付けるだけなんて何だか志が低いなあ」などと思ったりしました。何と愚かな私であったことか!もしあの当時、その重要性を理解し意識することが出来ていれば、その後の筆者はもうちょっとマトモな研究が出来たかも知れません。若い皆さんは、筆者の轍を踏まず、より高い能力を身に付けて下さい。

[この文章は、「高等教育グローバルセンターフォーラム」第39号(令和2年3月)に記載の原稿を基にしています。]

(「インテグラル」Vol.7 2020年4月1日発行)

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