「数学とは何か」(数理科学コース教員・田沼慶忠)

100万ドルの懸賞金がかけられている7つの問題の1つである「リーマン予想」が証明したという主張が、昨年ニュースになりました。「リーマン予想」とは、 数学者ベンハルト・リーマンが提唱した“ゼータ関数の非自明なゼロ点は全て直線上に存在する”という予想です。この予想を証明したと主張し人がマイケル・アティヤという数学者で、「アティヤ=シンガーの指数定理」などで有名な先生です。発表当時89歳と年齢で、老いてなお盛んという故事通りハンパない感じだけでも衝撃的ですよね。さらに騒ぎに拍車をかけているのは、量子物理学で出てくる微細構造定数を導出する過程で背理法を用いてこの予想を証明したと主張していることでしょうか。彼自身も理論物理学とも密接に関わりながら数学へ新展開を示し業績を残してきた方なので、証明に対する発想も驚きを感じます。その後、証明の正当性には重大な疑義が生じているようですが、みなさんもどこかで聞き及んだことのある方法で難題に挑んだとなると興味が湧いてきませんか。実際、私もその衝動にかられ、Youtubeにある数学フォーラムの講演を閲覧したり、その他諸々と調べてみました。そうしている内に、「数学とは何か−アティヤ【科学・数学論集】」(朝倉書店)という本があるのを知り、一通り読んでみました。

この本はエッセイ集で、数式はほとんど登場しません。彼が数学の教育研究からの経験から、数学と物理学の関係、数学とは何かという非常に親しみある演題についての彼の見解がまとめられて非常に面白いです。イギリス王立協会会長(歴代会長には物理で有名なニュートン、ケルビン卿など)を勤められた立場から、数学と社会との関わり、20世紀における数学の進歩などについて彼の意見や議論が書かれ、私の知らない事項も多くありました。また早くからコンピュータ出現による数学に対する影響や教育への警告にも触れられており、今後の私自身の考えや姿勢に関し参考や改善など考えさせられる部分もあって有意義に時間を過ごせました。巷の自己啓発本よりは、はるかに智慧の糧となる本なので学生にもオススメしたいです。

最後に、H27入学の学生が無事に卒業し心から祝福申し上げます。担任を一通り全うし様々な出来事など思い出されましたが、学生指導の在り方や取り巻く状況などについて省みる年度でもあったと感じました。新元号への切り替わる年度となりますが、変わりなく本コースの発展と学生の活躍に期待します。

(「インテグラル」Vol.6 2019年4月1日発行)

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