「わからない」を楽しむ心、待つ力(2019年度コース長・小野田勝)

多くの皆様からのご支援に支えられ、数理科学コースも無事に発足から6年目を迎えることができました。この場を借りてお礼申し上げます。昨年度は2期生を世に送り出し、ようやくコースとしての目鼻立ちがついてきたように思います。1期生の進路にも数理科学コースらしさの片鱗が見えておりましたが、2期生のそれには当コースと今の時代の両方の特色がより鮮明に現れてきました。コースの発足当初から我々が目指してきたのは、数学とその関連分野である理論物理学と計算機科学を合わせて学ぶことにより、広く数理科学的な素養を育み、これまでの理工系の枠をこえて活躍できる人材を世に送り出すことでした。それは、ビッグデータの蓄積にともない人工知能が日常的な業務へ入り込みつつある社会の要請にも応えるものです。一昨年度の卒業生の皆さんも多くの新しい扉を開けてくれましたが、当コースにとってのメインストリームが見えるまでには至りませんでした。一方、昨年度は銀行、監査法人、国税局などへ計6名が採用され、金融とその関連業界が大きな活躍の場として浮かび上がってきました。この状況は、これまでに面談した採用担当の方々から伺っていた「数年前から首都圏で起こりつつあること」とも一致しており、今後も一つの流れとなっていくと思われます。

上記のようなお話をすると、「数学や物理学などは横に置いておいて、人工知能、データサイエンス、金融工学などをもっと勉強したらよいのではかないか」と思われるかもしれません。しかし、その是非を見極めるには、当コース出身者に対して企業側が何を求めているかを理解する必要があります。実は、当コースを訪問してくれる企業には製造業の会社も多く、業務の内容まで見ていくと実に多種多様です。ほとんどの企業は、前述の先端技術や特定の専門知識に秀でたエキスパートを求めているわけではありません。繰り返し伺うのは「数学脳を持った人材がほしい」というフレーズ(もしくは同様のニュアンスのフレーズ)です。浅学寡聞にして“数学脳”と言う言葉は知らなかったのですが、そのフレーズの前後の流れから、言わんとするのは概ね次のようなことと理解しています。「数学的な考え方やものの見方を活かして、“当社の業務を”合理化できる人材がほしい。“当社の業務にとって”前述の先端技術がどのような意義をもつのか吟味し、その価値を判断できる人材がほしい。」ということだと思います。

採用選考の形も日々進歩しており、何気ない質問に対する回答を人工知能に分析させ、本人さえも気づいていない特質まで評価できるテストが開発されているそうです。少し気味が悪いですが、付け焼き刃の知識やその場しのぎの意見などは見透かされてしまうということなのでしょう。就職活動を取り巻く状況は目まぐるしく変化しておりますが、目的意識をもって日々の勉学に励んでいれば、少しも慌てる必要はありません。どこから手をつけたら良いか分からない人は、学んだ事を他の人に正しく伝える練習から始めてみてはいかがでしょうか。

(「インテグラル」Vol.6 2019年4月1日発行)

←「インテグラル」記事リストに戻る